ワーニング!
にょた+けもみみ+幼児化(Pさんとベジでベジの幼児はなし)をどうやって詰め込むかに掛かっている話です。カカベジと飯Pのじゅうはちきんも入れるのです。つまりカオスです。ニュートラル、ロウ属性の方はバックバック!
ピッコロさんのにょたはぼかしてあるので、地球人化からそのまんままでお好みで御想像ください。
ベジータのひんぬーは譲れません。
よろしければスクロールどうぞー















 王様ゲームの名を若者で知らぬものはいないだろう。問題は、雁首並べたお歴々が、若者の域に入る顔をしていても、所謂地球人の平均的境遇で育っていなかったということであった。簡易に言えば、奴らは何も分かっていないのだ。娯楽を愛する心を知らない。王様ゲームは命令されたら拒否権がないからこそ、当人たちも遊びとして割り切ることが出来るし、周囲はもっと面白いのだ。
 こんな奴に命令されてたまるか!怒鳴り合い乱戦に縺れ込んだ男共を机の下から窺い、ブルマは怒りに震えた。気に入っていたありとあらゆる器が宙を舞い、色とりどりの飲料水が絨毯にぶちまけられ、油分の多い肉類が壁に叩きつけられる。蛙だったなら王子になったかもしれないが、残念なことに、今逃げ惑うプーアルをかすめて絵画に新たな模様を描いた肉は、牛肉だった。いや。肉がずり落ちたところには、丁度ブルマの家の王子様が、一時休戦とばかりにしゃがみ込んでいた。重力に従って、フォークのような頭に落ち突き刺さる、甘辛く調理されたおいしいもの。
 王子は怒声を上げた。殴りかかる先は、絨毯に盛られたポップコーンを鷲掴んでいる、悟空だ。
 クリリン夫妻と呆れながら眺めていたピッコロと、どこかの祭りと間違えたようにトマト煮をぶつけ合う孫兄弟、トランクスが硬直した。
 まずい。全員の顔にでかでかと文字が描かれる。悟空とベジータが衝突すれば、互いに周りを見失いかねない。いちおう、今までは彼らだって手加減をしながら抗議しあっていたのだ。
 美しい面をしかめ、ブルマを見遣った十八号よりも早く、ピッコロが二人の間に割り込む。流石は戦士たちのブレインだ。ただ少しスピードが足りなかったらしく、背高い彼の頭上で、悟空とベジータが拳を付き合わせる。悟飯が顔色を変える。全て、ブルマが目で追えたのが奇跡のようなスピードで起こったことだった。
 やめてー、とブルマは叫んだような気がする。叫びを受けてか、ピッコロが実力行使とばかりに指先を二人に向け、光線を発する。やめてくださいお父さん僕まだデザートまでこぎつけてません!あとピッコロさんの近くでやるとか酷すぎます!叫び、悟飯が犬の喧嘩の如く一塊になり転がる父親とベジータに飛び掛かる。面白がってトランクスと悟天が便乗する。
 結果として、応接室周辺の三部屋が粉砕された。
 彼らの戦闘力を鑑みれば、部屋どころか地球三つが壊れてもおかしくないのだから、客観的に見れば幸運な被害の少なさだったといえる。しかしブルマにとっては怒り心頭に達するには充分な被害総額であった。恐らく数字の後にゼロ三つ。普通の家ならば泣き崩れるだけでは済まない金額だ。
 砂丘と勘違いしそうな破壊の跡に首謀者二人と、過剰防衛をしたいい大人二人を正座させたブルマは、非常に綺麗な笑顔で以って割り箸を五本差し出した。その中の一本をすらりと抜き、赤く王冠印の入った箸先をちらつかせながら、彼女は言った。
「王様だーれだ?」
 ヤムチャ、天津飯たちがさらさらした砂を掬い上げ、これは壁か皿か天井かと討議しあっている間に、震え上がりながらクリリンが呟いた。
「ブルマ様です・・・」


escape


 気に入っていた部屋を破壊されたブルマ女王様の御命令は、『二番が四番に「メイド服を着て一日御奉仕」三番が一番に「お馬さんになって西の都を一周」すること』であった。箸の尻に刻まれていた番号が、二番ピッコロ、四番悟飯、三番ベジータ、そして一番が悟空だったのは、最悪の展開だったといえるだろう。ピッコロに課せられた対弟子メイド服御奉仕も、ベジータに与えられた対ライバルお馬さんも、悟空はそう抵抗なくやっただろうし、悟飯も相手がベジータ以外だったらけっこう楽しんだかもしれない。
 ピッコロはそんな妙な服を着れるか、大体御奉仕って何をすればいいんだいいや聞きたくもない、と断固拒否した。プライドの高い王子はお馬さんも相手が悟空であることもダブルで駄目である。孫親子はといえば、無理無理マジ駄目とばかりに駄々をこねる二人を、感情の読めない表情で眺めていた。
 そんな梃子でも動かないだろうお師匠様と王子様に、噴火するかと思われていた女王様は、意外にも「いいわよ」と納得した。そして代替案を二人に持ちかけた。今考えれば、すぐさま代わりの案が出てきたあたり、誘導作戦だった可能性もある。その時はピッコロもベジータもちらつかされた脱出口に気を取られていたので、気が付かなかったのだが。
 無事な研究室に通され、それぞれに渡されたのは「キノコA」と「キノコB」、「キノコC」という三個の小指の先程の干しキノコだった。Aは赤く、Bは青く、Cは黄色い。明らかに食用でないそれらを、食えとブルマは言った。一齧りで構わないから、と。そして二人は黄色のCを一度齧り、勧められるがままに赤いAにも口をつけた。体に変化が出たのは、青いBのキノコを唇に当てたときだった。
 頭に飛び出た黄色の獣耳。筋肉の減少と張り出た乳。いささか胃凭れしそうな、例えるなら焼肉弁当にマヨネーズをぶっ掛けたような変貌。性別の変換と、人外のオプションの出現は、なかなかに互いの目にダメージを与えた。
 客観的に言えば、お姉さまなピッコロとつるぺたなベジータは、色々と修正を加えればアイドルユニットで売り出せそうな容姿だったのだが、ブラウン管に向かって手を伸ばしたらエネルギー弾が飛んでくるようなアイドルは、地球人的には願い下げだろう。本人たちもお断りするに違いない。それ以前に、彼らにそんな余裕はなかった。
 三種のキノコを詰めたピルケースを、ポケットにねじ込まれるのが分からないほどに、ピッコロとベジータだった生き物は混乱していた。ブルマは「ピッコロはGでベジータはAね・・・耳はピッコロが虎でベジータが狐かしら・・・」などと冷静にカルテに書き込んでいたが、互いに互いを指差し母音でしか騒げなくなっている二人は、気にする余裕がまるで無かった。ふむふむと書式を埋めたブルマが、騒ぐと孫くんたち来るわよ、と言ったところでぴたりと口をつぐんだ。代わりに元に戻せ今すぐ戻せと叫ぶ彼らに、ブルマは説明した。
 キノコは空気に触れさせてから一月は効果が続くこと。一度に二種類しか効果は出ないので、三種類目を口にすると最初の二種類のどちらかが打ち消されること。一月経ったら、体は元に戻ること。そして「逃げ切ったら許してあげるわ」とブルマは言った。どういうことだ。反問したピッコロにブルマは、孫親子には一月のうちに「ベジータとピッコロ」を捕まえるように言ってあるのよ、とにやんと笑った。皆で賭けをすることになったから、頑張って逃げ切ってね、と。
 ピッコロは確認した。開始の日時、孫親子がキノコの存在を知っているか、そして、オッズはどうなっているのかと。
 ブルマは言った。開始は一時間後。追っ手はあくまで、二人が通常の姿だと思っている。そして、オッズはひみつよ、と。
 二人は逃げた。逃げに逃げた。今更拒否すれば、掴まることは必至。そして、掴まればこのけったいな姿を見られてしまう。
 それだけは二人のプライドが許さなかった。

 それにしても、と、逃亡のバスの中で、しみじみとピッコロが呟く。
「地球人の女というのは、こんなにも胸部が痛いものなのだな・・・」
 現在は給油兼運転手の交代だとかで停車中のバス内は、けっこう暑い。大抵の人間はガスステーションの中の店に顔を出している。パッと見関係性の分からない仏頂面の二人の汗が、つるりと首筋から胸へ落ちていく。
「貴様のが重いんじゃないのか。俺はさっぱり分からん」
 鑑賞に値するボリュームの胸の下で腕を組んだピッコロが、スカスカの胸の下で同じく腕を組むベジータの言葉に首をかしげた。
「ない方がよかろう。というかタンクトップ一枚でお前はいいのか」
 脇乳と、ピッコロクラスの背の高さから覗き込むと見えてしまうピンクの何かは、ピッコロの常識からするとあまり歓迎すべきではないはずなのだが。逃亡生活も二十五日目となった今になってでは、指摘は遅きに過ぎたと言えるだろう。
「どうでもいい話だ。知るか。・・・しかし、三週間も見つからなかったのは、気が減っていたからだろうな。気を抑えるまでもなかった。空すら飛べんからな」
「ああ。だが、うっかり悟飯と遇ってしまったのはうかつだった。あちらも気を消せるのを忘れていたわけではないのだが」

 パンドラの中の箱の最後の希望と言うべきか、ブルマ名義のカードを所有していたベジータのおかげで、彼らの旅は至極ゴージャスなものになっていた。いつもの格好では遠めにすぐ分かってしまうため、黒を基調にしたゆったりとした衣装を身に付けたピッコロと、白のタンクトップとズボンの上下を譲らなかったベジータは、西の都を抜け、棒倒しが示した方向へとバスで進んだ後、仮面をかぶった祭りなどに顔を出す。合間に孫親子とは似ても似つかない殿方に絡まれたりもしたが、旅はおおむね順調だった。ベジータが何度か食事を奢るからと手を引かれそうになって体術でボコボコにしたことも、ピッコロが背後から抱きつかれそうになり長い脚で思い切り蹴り飛ばしたことも、新鮮な道行の前には些細なことだった。
 考えてみれば、地球に来たときから宇宙船か飛空挺か自力で空を飛ぶという選択肢しかなかった彼らである。自らの足と乗り合いバスで地面を這い歩くなど、初めてに等しかった。孫家とブルマ家以外の家族や家屋をまともに見たのも、地球の営みと風俗を眺めたのも、以前には無いことだ。
 スカウターで見たならば数十にまで落ち込んだであろう戦闘力と、外見の変化に落ち込んだ精神も、興味深い景色も手伝ってか、上向きになってきた逃亡生活二十三日目の朝。
 ピッコロと悟飯が、よりにもよって遭遇してしまったのだ。



 ピッコロは以前から見に行きたい場所があった。ユンザビット高地のふもとにある街。ジャガイモと豆が主食のそう豊かではない一地方の小さな街は、農耕と放牧と少しの祈りという、時が止まったような暮らしを営んでいた。そこの家の一つに、現在と同じ神魔一体だった頃の「昔の神」の遺産があるのだという。ユンザビット高地から出なかった神と、人間の街にどんな関わりがあったのか。ピッコロの頭蓋の中で語るものはない。ならば逃げる以外に特にやることのない日々の、暇にあかして訪ねてみてもよかろう。ベジータも特に否やは言わなかったため、二人は早いうちから棒倒しの旅をやめ、地の果てへと挑んだ。
 降り立った街は砂色をしていた。高地から吹く風が砂を運んでくるらしい。そのため普通の植物は育たず、サボテンが何本もアーチを描く街の入り口に立っていた。
「じゃあな」
「ああ」
 風に帽子を飛ばされないように抑えながら、二人はそれぞれ別の方向に進んだ。ベジータはユンザビット高地で一日修行するつもりで、ピッコロは遺産とやらを探しに。いつ落ち合うかなど決めない。互いの微弱な気は、何故かよく知ることが出来るのだ。強さを誇っていた日々よりも、よほど分かる。同病相哀れむかもしれないな、とピッコロは呟き、まあ違うか、と一人で否定をした。

「・・・あれ?」
 頓狂な声が耳を打ったのは、ピッコロが酒場で情報集めのため、熊に似た酒場の親父と会話を交わし始めたそのときだった。愛想のいい対応に、この姿も悪くはなさそうだと機嫌よくしていたピッコロは、腹の底に氷が張っていくのを幻視する。とっさに彼は声の主を誤らず直視してしまい、更に肝を冷やす羽目になった。黒い髪と黒い目。地元の人間に溶け込む色と、小洒落たベスト。頭脳派であることを主張する白い肌だけが、彼が異人であることを示している。馬鹿な。偶然でかち合うほど、西の都とユンザビット高地は近くないはずだ。混乱に陥るピッコロの視線の先で、カウンターに腰掛け蒸かしたジャガイモに塩コショウで味付けたものを喰らっていた悟飯は、一気に水を飲み干し、照れくさそうに頭を下げた。
「あ、ごめんなさい。女の人でしたか。僕の探している人に似ていて」
「・・・いや」
 ひとまずベジータと合流し、作戦を練り直そう。早々に踵を返そうとしたピッコロを、酒場の主が呼び止める。
「すまんね姐さん。よく分かんなくてさ。良かったら何か食ってくかい?」
「いや、そう腹が減っていないんでな」
「あはは、そう言わないで。すみませんでした、人違いなんて僕も失礼でした。何か食べていってくださいよ。一週間くらい前からいろいろ食べさせてもらったんですけど、これが美味しいんです。鶏肉のシチュー。他の味付けはなんでしたっけ?」
「干し海老とニンニクとコショウだよ」
 カウンターが埋め尽くされるほど並んでいる皿の中から、ひとつの深皿を悟飯は横に滑らせる。ピッコロは逡巡したが、断るのもやましいことがあるように見えそうだと、提案を受け入れることに決めた。促されるままに席に腰掛けると、スプーンを手に取る。基本的な体の構造は変わっていないため、水しか摂らずとも生きていける体だ。食えるのかと疑問に感じながらも、スープを掬い、唇に濡れた金属を押し付ける。傾けられたスプーンから澄んだ汁が口内へと流れ込んでいくのを、悟飯は瞬きもせずに見詰めている。
「・・・食えるな」
 ピッコロは感嘆に近い声を上げた。味というものはよく分からないが、ぬくみが喉に気持ち良い。
「そりゃ、ありがとよ。都会の人にそう言ってもらえりゃ嬉しいぜ。と、兄ちゃんどうした。一目惚れかい?そんなに見入っちゃって」
「え?え、ああ、や、その」
 真っ赤になって視線をもぎ離した悟飯に気付いたピッコロは、内心冷や汗まみれだった。外見が違う、背丈も違う、衣装も違う、声も違う。なのに気付くかもしれないと思ってしまう何かが悟飯にはある。優秀で冷静なピッコロの頭はひとつの言葉で埋め尽くされている。すなわち、バレてくれるな、である。
「どうした」
「僕の探している人に、ほんとに似てて・・・ごめんなさい。じろじろ見ちゃって」
「いや、構わん」
 短く言った後。ピッコロはかまを掛けてみることにした。
「・・・先程一週間滞在していると言ったが、何か探しものでもあるのか?」
「そうなんですよ!」
 悟飯はピーナッツと臓物の炒め物をかきこんでいた手を止める。口の周りに刻んだ黄色のものが張り付いている。
 彼は語る。いつだったか、探し人に聞いた昔話。
 あるひとりぼっちの子供がユンザビット高地に置き去りにされた。彼は長い間ひとりぼっちだった。親を待っていた彼の元に、ある日生活に絶望を感じたひとりの男が現れた。都会で事業に失敗し多額の借金を作った男は、家族にも、誰にも見つからない場所でひっそりと死んでいこうとしたのだった。子供は持っていたひとつの宝を男に渡した。それから男がどうなったのか、子供は知らない。ただ男が高地のふもとの街で再び生きているのを知るのみだ。
 不思議な昔話ですね、と主人が唸った。
「ええ。僕の尊敬するひとの、一世代前の昔々の話です。話をしてくれた人を、僕は探しているんですが・・・」
「そのお宝って、姐さんが探してる「妙なもの」とは違うんですかい?えらい昔からあるっていうその「妙なもの」とは」
 ピッコロは親父の口を、手元のスプーンで塞げたらどんなにいいかと思う。そしていつだったか、悟飯に「時間が出来たら探してみるさ」とか言ってしまった昔の自分を心の中で踏みつける。ピッコロは己を呪った。きっと悟飯は最初からこの街に的を絞っていたに違いない。どこまで記憶力が良く、ピッコロの思考パターンを読んだのか。無駄なことが嫌いなピッコロが、無為に一月も逃げ回るはずがないと、彼は信じたのだろう。そして賭けた。師が思い出を掘り起こしに来ることを。運命。そんな浪漫溢れるプラスの言葉で片付けられたらどんなにいいか。この場合適当なのは、不運な偶然、であろう。
「ち、違う。お、いや、自分が探しているのは、その、お、弟、いや息子の・・・形見だ」
 もう、あほかと。もう少しマシな探索物を装え、と。傍から舌を貶しながらも、他に思いつくことの無かったピッコロは、苦手な嘘をしどろもどろに吐いた。悟飯が食いついてくる。
「えええお子さんのですか!それ「妙なもの」なんですか?」
「えー・・・小さくて字が下手だったから、解読できるかどうか分からない。だから妙なものと言ったまで」
「確か姐さん四、五ひゃ・・・」
「いや、世話になった」
 親父の言葉をぶった切る。確かに四、五百年前と言ったピッコロである。神がユンザビット高地に降り立ったのはエイジ二六一年頃。それから三十年程度そこで両親を待っていたと言っていたから、遺産を残したならばその辺りだ。だがそんなことを悟飯の耳に入れたら一巻の終わりである。瞬時にその程度の計算、身内の欲目無しに悟飯はやってのける。
「忘れてくれ。ともかく、この街ではないようだ。馳走になったな」
「姐さん」
 扉の席に溜まっていた、がたいの良い男たちが投げ出した足が、ピッコロの扉へと向かう視線を阻む。怜悧さを保ちつつも、内心の焦りを瞳の険に表すピッコロに、彼らは言った。
「うちの長の家に行ってみちゃどうだい。あんたさっきのバスで来たんだろう?次に来るのは三日後だぜ。観光名所なんてねえ。精々ユンザビットのふもとにある俺らの鉱山くらいだ。なら、村長に昔話でも聞きに行ったらどうだい?」
「わあ、名案です!」
 明るい声が割って入る。悟飯の乱入に男たちは、気が削がれたとでも言いたげに足を仕舞った。勘定を済ませた悟飯が、扉を開け放つ。鈴の音と共に黄砂が吹き込むので、仕方なくピッコロは悟飯に促されるがまま渇いた外界へと戻ることになる。扉を背にしたピッコロに、悟飯は笑いかけた。
「実はね、僕も村長さんの家にお邪魔してるんですよ。というか、この街って宿屋がないらしいんです。それに、普通の人の家に余所者は泊められないらしくて」
「ほう」
 バスが来るのは三日後。宿屋はない。これは、開放を目の前にした最後にして最高の難関のようだ。ピッコロは腹をくくることにした。宜しく頼むぞ悟飯。そう言ったピッコロに、悟飯は少し不思議そうな顔をして、しかし「はい!」と答えた。

 悟飯を強制イベントでパーティーに加えたピッコロは、村長の家への道筋を、もくもくと歩いていた。
「あの、そういえばまだお名前窺ってなかったような・・・」
「・・・さあな。見ず知らずの人間に名を明かすほど無用心ではないつもりだ」
「む、さっき宜しくって言ってくださったじゃないですか」
「それとこれとは話が別だ。道案内をしてくれと頼んだんだ」
「警戒されちゃったかなあ・・・僕、そういう人じゃないですよ?大体僕、好きな人がいるんです」
 貴方より素敵な人だから大丈夫、とあさっての方向に危険性がないことを力説する悟飯。焼いた土を重ねた家屋の角を、確か右だ。ナメック特有の記憶力の良さをフル活用するピッコロの頭は、同時に多少機嫌を損ねた信号を全身に流した。貴方より素敵、とは、このピッコロよりも素敵、ということだ。悟飯が人を褒め称えることはあまりない。悟飯に限らず孫一家は、特に第一声は己の素直な感情を口に出す。だからきっと、悟飯が容易く言った好きの言葉は、普通の地球人の何倍も真実に近いのだろう。
「いつも冷静で頭が良くて、言葉は少ないけどすごく優しくて、かっこよくて、つよくて、きれいで、すてきな、僕の大好きな人です」
「・・・よく言う」
 微細な量の血を逆流させたピッコロは、足の動きを早める。結果、少し前を歩いていた悟飯の肘が、豊かな胸部をぽよんと圧迫することになった。
「わ」
 何事もなかったかのように、悟飯を追い越すピッコロの背を、悟飯は耳まで朱を上らせ見詰めた。背丈は同じくらいだが、体が細く、首と手足が長い。顔も小さい。そして、と悟飯は肘をそっと撫でる。積乱雲に質量があったらこんな感触に違いない、重さを感じないくらい柔らかな・・・
 はわわと悟飯は頬を両手で挟む。熱くて仕方がない。当たった肘がぞわぞわした。
 モデルにしては無愛想で、しかも子持ち。一体何が悟飯の心をくすぐるのか、全く分からないのだけれど。
「なんだろう・・・ドキドキする・・・におい、が、似てるのかな・・・」
 一ヶ月間顔を合わせていない師を思い返す。以前行きたい場所を尋ねた際、ピッコロが語った昔話の舞台となった場所。ミステリアスな女性。彼女の探すもの。好奇心をくすぐるには、充分な要素だ。
「待って・・・待ってください!」
 悟飯は大股で進むピッコロを追い、乾いた空気の中を走り出す。 




つづくよ