天上天下 2


3
あまりの寝覚めの悪さにげんなりとしながら、精神感応能力とは厄介なものだとピッコロは首に掌を添えた。
ベジータも、ピッコロの掻い摘んで語った事実に怒る気力もなく、神経質にシャワーカーテンの内側から言う。
「結果論としてだが、お互い五体満足だったのは喜ぶか」
浴槽で水滴が無数に音を立てていた。湯気にくぐもった声を背中で聞きながら、ピッコロは洗面台の蛇口を捻る。どうどうと流れ出す水の流れを凝視した。曇った鏡には、真摯な目をした異星人と、ピンクのカーテンが映っている。
「・・・そうだな」
ピッコロは頷いた。ベジータにしては、しおらしい物言いだ。それほどに彼が疲労しているのを、ピッコロは感じ取る。悟空は相当遊んだようだ。ピッコロと同じく、もし日が昇らなければ、危なかったかもしれない。
曙光が差した途端強制移動させられた己のベッドから起き出し、惑いながらも二人がシャワー室でかち合った時、肩と肩が触れ合った。途端に流れ込んできた映像の断片は、ピッコロの額に汗すら浮かばせるものだった。
他者の実力を感じ取る能力に長けているベジータは、たびたび相手と己との力量差に怯みを見せる。そんな彼が、唯一がむしゃらに愚かに向かって行くのが悟空を相手取った時だ。なるほど、信条を覆すに足る恐怖だ、とピッコロは幾分かベジータに同情を感じた。
「貴様が孫を相手にしてくれて助かった。悟飯と孫二人がかりでは、俺ではどうしようもない」
「フン。それで、何をしているのだ」
湯気を上げるベジータは、サイヤ人の戦闘服を既に着込んでいる。カーテンを引いた彼は、ぺたぺたと素足でピッコロの隣に並んだ。広い鏡に、大小二人の戦士が並ぶ。
「まさか川に下水が流れ込むはずもないだろう。地に染みこむか、消えるかした場所から、手がかりがつかめんかと思ってな」
蛇口から白い洗面台を抉る勢いで放出される水の流れを、ピッコロは丹念に追う。水道管を通るところまでは地球と同じだ。それから・・・
ベジータはタオルで逆立った黒髪を乱暴に掻き回している。ピッコロはおもむろに蛇口を捻った。水音が止まる。
「どうだ?」
「駄目だな。どうも不自然に流れがぼやけやがる・・・」
「それならはっきりしたも同然だろう。悟飯が言ってたんだったな。これはクウラが元凶だと」
普通の惑星に飛ばされたなら、不自然に消えたりするはずもあるまい。語ったベジータは、鏡の中の己を睨みつけている。背の低い彼を見下ろしたピッコロは、意外さを覚えた。静かだ。あれだけ悟空にプライドをめちゃくちゃにされたなら、いきり立って所構わず暴れまわってもおかしくはない。
「すまんな。精神的なスキルはむしろ高まっているはずなんだが・・・」
ピッコロも素直に呟く。そうだ、わだかまりしかないベジータ相手に記憶が読み取れたのだ。純粋なパワーならばともかくとして、探査系の能力には磨きがかかっているはずだというのに。
「ともかく、身内が問題だな。悟飯と孫が起きて、正気か否かで対応も変わる」
「おいナメック」
「俺はピッコロだ」
「ならピッコロ」
何だ、と律儀にピッコロは答えた。ベジータは未だに自分自身と睨みあっている。
「貴様に問いかけても無駄かも知れんが・・・仮にだ。クウラが奴らの腹を減らせ、食料庫へと向かわせたとする。奴の狙いは、明らかに「同士討ち」じゃなく「交尾」だった。これには貴様も反論できないな?」
「そうだな」
殺し合いをさせたいならば、中途半端に情欲を煽るなど面倒なことをしなくても良い。そして、理性を残しておく必要はない。もし情欲を煽った上での殺し合いを望むならば、異変を起こす人選は悟飯とベジータであるべきではないだろうか、とピッコロはふと思う。正気でいるのは、悟空とピッコロであるべきだ。悟空はなんだかんだで優しい。正気のまま、息子とライバルを手に掛けられるとは思えない。同じくピッコロも、ベジータならばともかく、悟飯を殺せない面白くもない自信がある。
「俺は何故選ばれなかった?」
静謐な声でベジータは囁いた。押し殺した、やり場のない痛みが彼の胸中にあることを、ピッコロは感じる。
「俺は食う立場じゃないのか。いつまでも食われる立場だというのか」
「ベジータ。一人で怒るな。俺も同じ立場だということを忘れるな」
「別に怒っちゃいない。ただ、疑問なんだ。俺は、何故、ああも簡単に押さえ込まれた。殺せなかった?弱いからなのか」
グ、とベジータの気が上がっていく。サイヤ人の王子がぬくぬくと宮殿で育たなかったことを、ピッコロも知っている。彼にとって優しくない記憶が今回の事件で想起されていると、察しの良いナメック星人は悟った。
「どうしてだろうな」
穏やかなまま、己への怒りを持ち、ベジータはスーパーサイヤ人となった。今回も同様の、いやそれ以上の現象が起こったに違いない。ピッコロは肌が切りつけられる痛みを、隣の気の塊から叩きつけられる余波で感じ取る。強い。素直に感じ入る。このベジータは、強い。純粋に、ピッコロは受け入れた。ナメック星での殺戮の記憶は、まだ残っているけれど。
「貴様は強いぞ、ベジータ」
呟いたピッコロの言葉は、ベジータの発した凄まじい放射状の気によって掻き消された。


「うわ!今、太陽がすごく光りましたよ!」
「おーい、トイレ貸してくれー」
腹を掻く、休日の親父そのものの仕草と、若々しい顔のギャップがものすごい父親と、瞼が少しはれぼったい息子は、廊下でばったり顔を合わせた。
「お父さん、今外が・・・」
窓がチーズみたいに溶けるかと思うくらい、昇ったばかりの太陽が、熱と光を発したんです。一生懸命頭で光景を再生し、言語化しかけた悟飯は、言葉をぐっと飲み込む。そのままバスルームの扉を開け放ち、叫んだ。ピッコロの気配と、破壊の匂い。双方が、強く悟飯の鼻腔を刺激したのだ。
「・・・ピッコロさん!?」
「何だ」
ピッコロはいつもと変わらない平然とした口調だったが、衣服をすべてずたぼろにし、所々に紫の血を滲ませていた。最も出血が酷いのは、上腿部。悟飯はピッコロの足元に駆け寄る。ぴくりと師は手指を動かしたが、悟飯を押し留めることはしなかった。悟飯はぱっくりと開いた傷口に手を翳す。
「ひ、酷い、どうしたんですか!」
「おいベジータ、あんまやんちゃすんなよー」
「おとうさん!」
「たいしたことねえって、悟飯」
大丈夫だと手を振りながら、悟空はバスを横切りトイレへの前に立つ。ピッコロも悟飯を宥めるように、一歩踏み出した。
「そうだ、こんなものは大した傷じゃない。多少見た目が派手なだけだ」
超ベジータは何を考えているのか、不思議そうな顔で自分の手と、中空を交互に眺めている。彼を一瞥すると、ピッコロは組織の再生に集中した。みるみるうちに傷が塞がる様を、痛々しげに悟飯は見た。治るとはいえ、痛くないはずがないのだ。小便の音が長く続く間、誰もが無言だった。
「うひょ、何かすっきりしてると思ったら毛に白いもんが」
「黙らんか孫」
ぴしゃりと言ったピッコロは、微かに震える悟飯の頭に手を置いた。くしゃりとかき混ぜてやる。髪に触れると、悟飯はいつも嬉しそうに笑うのだ。
「悟飯、俺は平気だ。今のは事故のようなものだ。それよりも、お前は大丈夫なのか?」
「え?僕ですか?」
「いや、昨日の・・・」
くりくりとした悟飯の目は、一点の曇りもない。これはつい先程までの言動は覚えているまい。ピッコロが見切りをつけたところで、小さな笑い声が上がった。
「クク・・・くはは・・・はははははは!」
ベジータが、声の限りに笑っていた。おいどうしたとピッコロは微かに動揺し、悟空は腹をさすった。きっと身構えた悟飯に視線すら注がず、彼はピッコロへと言い放った。
「分かったぞ!今そこのガキが「太陽が光った」と言ったな!」
「おめえ耳いいなあ」
悟空ののんびりとした台詞に、ベジータは不敵な笑みと共に言った。
「貴様ら全員外へ出ろ。俺様が真相を解明してやる!」
ピッコロは無言で外を指差す。悟空と悟飯も、それぞれピッコロの後に続き、玄関から出た。ひさしから出た三人は、目を指す太陽に目を細めた。地平線から三十度程の高さにある光熱の塊。それが、
「な・・・!」
胎動するかのごとくびくつきながら、凄まじい光を放った。もう、限界を超しているのだとでも言いたげな光り方に、はっとピッコロは家屋へと視線を戻す。ベジータが、先ほどと同じ激しい気を放出している波動が伝わってきたのだ。
「そうか・・・」
ピッコロは目の奥を貫かれる錯覚を捻じ伏せ、光球を睨み上げた。
「あの太陽は、俺たちのエネルギーを吸い取った姿か・・・!」
今、ベジータはありったけの気を壁面に叩き込んだに違いない。
太陽は、恐らく夜間、エネルギーを生体から搾り出す。生まれた太陽はエネルギーの塊だ。それを、半日掛けてゆっくりと吸収するつもりなのだろう。心を穏やかに保った、一皮剥けたベジータのエネルギーだからこそ見つけられた変化だ。
ならば、四人で一気に送り込んでやればいい。
ピッコロはにやりと口の端を吊り上げた。


4
結局、僕も父さんもベジータさんもピッコロさんも、きちんとした性交渉は持たないままでした。地球のサタンシティで最も立派な椅子に腰掛けながら、悟飯はサタンに語っている。

ピッコロの指示により、力を集めた悟飯が感じ取ったのは、己以上の金色の熱と光を持った塊だった。
ふたつの塊は、双子の太陽のように光り輝き、背を向けて立っている悟飯ですら、全体像がはっかりと分かるくらいの存在感があった。それは勿論純血サイヤ人の二人が、限度を超えてパワーを発揮した姿だった。
悟飯はピッコロと目線を合わようとした。だが、逆巻くマントを従えた彼は、苦しさと厳しさを混在させた表情で、生命を搾り取っているかのような凄烈な気を燃え立たせていた。ふと地球の緑の匂いを嗅いだ気がして、悟飯は無意識にピッコロの傍にまろび寄る。純血のサイヤ人に圧されたと思ったのか、力強く引き下ろされたマントが悟飯を包み込んだ。ピッコロの匂いが強くなる。悟飯はきゅうっと布地を握り込む。二人の気が交じり合い、ごう、と一度悟空とベジータの気を押し返した。悟空がひとつになった姿を目に留め、ちらりと笑った。

世界は跡形もなく崩壊した。

彼らが囚われていた場所は電脳世界だった。タネを明かせば、クウラが間断なくエネルギーを搾り取る家畜としようとして、彼らの精神だけを閉じられた世界に送り込んだのだ。クリリンたちの気を感じられなかったのは、四人の精神自体が違う場所にあったゆえだった。
世界に昇る太陽は、夜のうちに搾り取られた全員のエネルギーが、クウラに供給されている姿だった。日が沈むと放牧されていた羊が羊舎に戻されるように、搾り取るための装置、ベッドに送り込まれたのだ。
それだけならば良かったんです。悟飯は組んだ手に額を押し付けた。
「あいつは、僕が雑種であることに着目した。原始的な精子を用いた受精が、サイヤ人の力をパワーアップさせると。きっと僕たちのエネルギーと一緒に、精子を搾り取るつもりだったのでしょう。
あのときの僕たちはクウラの電池のようなものでした。数が増えれば、それだけビッグゲテスターは行動範囲を広げられる。クローンを作らなかったのは、遺伝子の配合によるパワーアップを狙ったのと、僕たちの情への精神的な攻撃のためだったのではないかと、思います」
悟空を助けに現れたベジータ。息子を思う悟空。弟子のため、単身乗り込んできたピッコロ。師の姿に快哉を上げた悟飯。
もしかすると、クウラにも弟への情が多少なりともあったのかもしれない。それゆえの、縁深い四人への攻撃、と、悟飯は今では考えている。
「精神と肉体がひとつに戻った僕たちは、少なくともピッコロさん以外はパワーアップしていました。サイヤ人は死に掛けるとグンとパワーアップするんです」
クウラを擁するビッグゲテスターは、四人のエネルギーに受容量を超え、オーバーヒートして異常をきたした。最後に残ったクウラ本体の残骸も、悟空とベジータが撃破した。
擂り潰されかけていたウーロンも、ビッグゲテスターが停止したことによって一命を取り留めた。クリリンは、ふらつくメタルクウラをピッコロと悟飯が一撃で仕留めたことに唖然としながらも、彼らの無事を素直に喜んだ。
ただ、悟飯は浮かない顔をしていた。家に戻った後父にこっそり問いかけると、彼も同じだと言った。
クウラが爆発する前、脳に直接響いてきた言葉があったのだ。
『貴様らの精神に取り込んだ我が世界の食事は、貴様らの神経系の一部分を犯した。ウイルスのプログラムは永久に死滅することはない。地球人の技術では治療も叶わん。自分以外の三匹のどれかに、精を注げと命令するプログラムは、今は作動せずともいつか必ず表に出る』
楽しみにしているんだな。そう怨みを込めた口調でクウラは語りかけ、今度こそ宇宙に散ったのだった。

「ピッコロさんは、僕の最愛のお師匠様はね、サタンさん。僕の大恩人で、大好きな、憧れの人だったんです」
悟飯は不意に、俯けていた顔を上げた。サタンは背筋が笑い出すのを止められなかった。がたがたと顎が鳴る。足先がタップを刻む。武道家として、生物として、触れてはならない生命体が、机を挟んだ向こう側にいることをサタンは悟った。鈍い彼が知るのだから、サタンシティに勘の良い者が居れば、青褪めて英雄の家に飛んでくるだろう。
殺気にも似た気を暴風のように放出させた悟飯は、人畜無害な顔を豹変させていた。
「尊敬していました。父さんと同じくらい。・・・あのひとの味を、異種族の婚姻を結んでしまう前までは。知らなかった。小さかった僕は、あの中を味わうことはなかったのだから」
俺はあの快楽と、あの嬌声を聞くためならば、あのひとに嫌悪されても欲を満たしたい。
悟飯はぎらぎらとした欲情を滲ませながら、サタンの前に記憶を晒した。


悟飯が己の異常が手に余ると感じ取ったのは、ピッコロと久々に顔を合わせ、近況を語っているときのことだった。お年頃の悟天やトランクスは、何の娯楽もない天界にはあまり顔を出さないし、クリリンは神の名に圧され遠慮をしている。ブルマやベジータはすっかり地球の生活に戻って、あるいは馴染んでいたし、昔の仲間の話を聞けるのは、研究に忙しい悟飯が休暇を取れ、なおかつ家族サービスがない場合に限られるのだった。
「でも、ピッコロさん下界を覗けるんじゃないですか?」
子供っぽく、氷と薬草の浮いた茶をストローで啜る悟飯に、師は穏やかな、少しだけ照れたような顔を向けた。
「・・・覗き見はあまり好きではない。それに、お前の主観で話を聞くのが、俺にとっては面白い」
ピッコロは、神と融合してから格段に柔らかくなった。
それは、悟飯との距離を意味した。平和になってからは、特に。
悟飯も日々の新しい生活に流されまいと、懸命に学び、遊び、恋をして、家庭を持つまでに至った。
何故胸が痛むのだろう、と悟飯はぼんやりと思う。
数年前から、そう、娘の生まれた直後から、脳にがんがんと響く師への渇望は、抑えきれたと思っていたのに。
悟飯は、父となってから不意に、クウラの世界でピッコロと交わりかけた記憶を思い出した。悟飯の意識の底で眠っていた記憶は、クウラの今際の際の言葉、いつか発動する情欲のプログラムの存在と、すんなり結びついた。ベジータでも父親でも良かったはずの欲望は、完全に天界で佇んでいる「彼」ひとつに的を絞っていた。疑問はなかった。昔も、悟飯が求めたのはピッコロだったのだから。
それからが、悟飯にとっての地獄だった。
彼は強い精神で、情欲自体を封じ込んだ。荒っぽいことも幾度もした。身を酷く苛めるような修行もした。もともとそう、性衝動の強くないサイヤ人の血が混じっている悟飯だ。数々の苦行の成果か、最近は、頭痛も気にならない程度の穏やかなものとなった、と思っていた。
「・・・どうした、悟飯?」
両肘をテーブルに押し当て、頭を抱えた悟飯の棘々した頭を眺め下ろし、ピッコロが慮る声を出す。この声がいけない、と悟飯は昂ぶっていく体を、上がる呼吸を、心拍数を、醒ますために全神経を集中させた。昔からタイミングを計ったようにピンチになるとやってきて、悟飯、と深い声で名を呼んでくれる、この声が悪い。
それから、体毛のない体が悪い。手触りの良い、弾力性のある肌が悪い。
悟飯はゆっくりと、顔を持ち上げた。
ピッコロが息を呑んだのが分かる。その唇の中にある、人と同じ色の口内の肉を味わいたいと、喉が鳴った。
あの、甘い香りの体液。ひくつく腹筋。あやうい発音の声音。そして、
「ピッコロさん、確か、ここがお好きでしたよね」
椅子に腰掛けた彼の背に回る。ピッコロはまだ目で悟飯を追えていない。口でターバンに噛み付き持ち上げると、悟飯は恭しく手を差し出す。掬い上げるように二本の触覚の先端を、両手で包み込んだ。
「っ・・・!」
「くだらない。自制なんて、俺は貴方を捻じ伏せるくらい、地球を制圧するくらい簡単なことなのに」
椅子が空中分解する。神殿の中庭にあったテーブルセット一式が、破片も残らず溶けた。白亜の壁が沸騰している。倒れ込みかけた長身を、悟飯は片手で引き止めた。ひとつにまとめた触角を引き寄せ、尖った耳に囁く。
「頭のいい貴方なら、覚えてるはずだ。小さい、超化すら出来なかった俺が、今と同じ力を顕していたこと。その潜在能力を表出させた俺に、手も足も出なかったこと・・・」
「来るなデンデ!」
同族の気配を察し、ピッコロは鋭く叱咤した。悟飯は歪な笑みを浮かべる。
「貴方が思っていることを、してあげましょうか?」
「・・・」
ピッコロは思い出している。正しく、確実に、記憶の改竄すらなく。惑乱に満ちた、狂気の記憶。証拠に、中腰になった体が、身を庇うように己の手首を掴んだ。
「思い出したのか・・・?」
「ええ。しばらく前に。洗脳みたいなものがまだ、残っていたみたいですね」
「分かった・・・分かった、悟飯。ここはもう壊すな。場所を移そう・・・ベジータや孫と諍いを起こすくらいなら、俺が相手をしてやる」
「さすがピッコロさん。俺の大好きな人だ」
尖った犬歯が威嚇するように剥き出される。最近では見なかった、ピッコロの怒りの形相だ。それが悟飯にではなく、状況と己に向けられていることを、悟飯は知っている。
俺よりも強ければよかったのに、と悟飯は胸中で囁いた。ピッコロ大魔王の名で、弟子を叱り飛ばしてしまえるくらいの力があればよかったのに。なんて皮肉な運命だろう。悟飯はふつふつと狂喜がこみ上げてくるのを止められない。ピッコロは眉間の皺を深くする。
「その、究極の力を抑えろ。地球上のどの場所に行ったとしても、拠りつく場所が壊れてしまう」
そうですね、と、悟飯は上の空で同意を示した。




つづきます